2021年12月30日木曜日

あんこ


 残っていた小豆で粒あんをつくり、いつも野菜をいただいている妻の知人に半分あげたら、もっとたくさんほしいとリクエストがあった。以前にも一度あげて「絶品」と喜ばれたことがある。

 「絶品」といわれるほどの技は持ち合わせていないが、美味しくなる秘密は薪の火で煮上げていることだろう。今回は小豆1キロを使い、薪ストーブを焚き始めるのに合わせ、朝6時前から鍋をかけた。一度沸騰したら煮こぼして、豆が柔らかくなったころ、また煮汁をこぼし水を入れた。浮いてくるアクもこまめにすくう。3時間ほどで豆が煮崩れたので砂糖をまず1キロと塩ひとつまみ投入。甘みが足りないのでさらに200グラム加えた。薪の火はとろ火。ここからが長い。焦げ付かないようにまめにお玉でかき回す。約3時間、正午過ぎにできあがった。鍋いっぱいになり、手で持つとずしりとくる。

 早速バニラアイスにのせて食べた。翌日からはクラッカーと一緒に。金時豆の甘煮もつくった。こちらは砂糖を控えめにした。

 豆料理を本格的に始めたのはカフェを開いた12年前から。それ以前からひよこ豆のカレーは時々つくっていた。カフェで出すカレーはひよこ豆ともう1種類。カレーに付けるスープはレンズ豆。スイーツは白玉と粒あん、豆の甘煮にアイスを組み合わせた1品とシフォンケーキを用意した。

 そのころネットで見つけた北海道の専門店「べにや長谷川商店」から、時々取り寄せていた。このお店にはパンダ豆やビルマ豆、栗いんげんなどスーパーで見かけない豆もたくさんあった。お店オリジナルの豆料理本も購入していろいろ試した。最近、長谷川清美さんが世界の豆探訪記「豆くう人々」を出版されたと知り、読もうかと考えている。

 日本で豆料理というと、大豆が中心であとは甘煮やあんこ。近年はひよこ豆が手に入りやすくなったが、まだまだ料理に使われる種類は少ない。水につけて戻す手間が敬遠されるのだろうが、作り慣れると苦にならない。時間がない時は圧力鍋を使う。レンズ豆なら水に戻さずそのまま火にかけ、30分ほどで煮上がる。ひよこ豆と一緒にカレーに使えば、市販のルーを使わずともとろみがつき、味もこくがあっておいしい。

 家で肉は食べないので、豆はひんぱんに食卓にのる。新聞の記事で、高齢者もタンパク質が不足しないよう肉、魚をしっかり食べましょうと相変わらずの肉食のススメを読むとうんざりする。豆を忘れていませんか。

2021年12月19日日曜日

小鹿田焼

 

小鹿田焼の里
 

 念願の小鹿田焼の里を訪れることができた。小鹿田焼を知ったのは柳宗悦の「手仕事の日本」だった思うが、その岩波文庫は書棚に見つからなかった。20年以上も前だったと思う。

 別府での湯治2日目、別府駅前でレンタカーを借り、九州自動車道を日田へ向けて走った。土曜日だったが、訪れる人も少なく、里は山あいに静かに生業が営まれていた。

 柳はその本で「不便な所で荷を車で出す道さえありません」と書いているが、さすがに今はそんなことはない。しかし、途中の川の様子を見た途端、水害のニュースがよみがえった。2017年の九州北部豪雨に続き、昨年7月に起きた豪雨災害が甚大だったことがわかった。

 柳は小鹿田焼について、種類が大変多くて多彩とし、「こういう品物を台所なり食卓なりと置くと、花を活けているのと等しいでありましょう。それに驚くことにいずれも形がよく、醜いものとてはありません」と賞賛している。さらに「おそらくこの日田の皿山ほど、無疵で昔の面影を止めているところはないでありましょう。(中略)それ故昔の窯場がどんな様子であったかを思いみる人は、現にあるこの小鹿田の窯を訪ねるに如くはないと思います」と記している。

 「手仕事の日本」が世に出たのが1948年というから、柳が訪れたのは戦前のこと。しかし、今訪れてもその佇まいはあまりかわっていないと思わせるほど、里の風景は郷愁を誘う。小鹿田焼の歴史を紹介する陶芸館と窯元のほか、そば屋があるくらいだ。

購入した小鹿田焼と小石原焼(奥)

 6寸の皿と小鉢を買った。値段は驚くほど安かった。通販サイトで表示されている半値以下だ。家人の気に入った飯碗を買おうとしたが、さっきまでいた窯元の人の姿が見えない。すぐ横の住まいや作業場に声をかけたが応答なし。残念ながら諦めた。しかし、帰ってから代金とメモを残して持ち帰ってもよかったかなと思い返した。

 小鹿田焼は江戸中期、山ひとつ越えた小石原から陶工を招き、始まったとされる。小鹿田を訪れる前の日、別府・鉄輪温泉にある「冨士屋ギャラリー一也百(はなやもも)」のショップでマグカップを買った。てっきり、小鹿田焼だと思ったところ、店の女性に「陶技法を小鹿田の人に教えた小石原に窯を持つ人の作品です」と言われた。思わぬ縁を感じた。

 たしかに柳の書いているように、小鹿田焼の器に料理を盛ると、粗菜でも映えておいしく見えるから不思議だ。

2021年12月8日水曜日

鉄輪温泉

 

 

 別府の鉄輪温泉を初めて訪ねた。金沢、新大阪、小倉で乗り換え、列車で8時間余り。湯治が目的だが、5泊6日はちょっと短かった。宿は「ひろみやToji Stay Hiromiya」。湯治をうたう宿だが、アルファベットで表記しているように、コロナ前は外国人旅行者がとても多かったようだ。ちなみに予約はBooking.com。素泊まり専門で、妻と2人で5泊で23,524円。1泊1人2,350円の計算になる。宿に内湯はあるが、徒歩数分のところに100円か150円で朝6時から入れる銭湯がいくつもある。自炊できるキッチンもあり、調理器具、食器も完備し、近くにスーパーもある。界隈を散歩して気づいたが、「貸間」「かしま」の看板が目につく。湯治客が多かった往時がうかがわれる。市街地にある温泉なので、普通の暮らしの中に温泉文化が息づいている。

 さて、着いた翌朝、朝湯と散歩兼ねて歩いていると、思わぬものを目が捉え、言葉を失った。緩い上りの小道の傍らに、鮮やかな赤紫の塊。遠目にも木に群がり咲く花だとわかったが、鈍色の北陸の空の下からやってきた旅人には、にわかに信じ難い光景である。近づくと、地植えされ、樹齢を重ねた立派なブーゲンビリアだった。



 11月26日のことだった。北陸でこの時期に見られる花はサザンカくらい。わが家にも鉢植えのブーゲンビリアがあるが、12月に入れば、室内に避寒させる。

 それから数日後、午前中、鉱泥温泉の泥湯に浸かったあと、近くの海地獄に向かってブラブラ歩いていくと、こんな鮮やかな花を目にした。南米原産のマメ科の花木、コバノセンナと後でわかった。


 「ひろみや」を宿に選んだのは、親切な応対に感激したフランス人の女性が書いた口コミを読んだから。宿を切り盛りするミホさんは気さくで温かく迎えてくれた。宿泊した外国人のなかにメールを交換する人が何人かいるそうだ。「でも、わたし英語はまったくできないんです」。その気になればなんでもできる。

 旅の楽しみは、安くて新鮮な材料を自分で見つけて、自分で調理する食事に似ている。お金をたくさん使っても、食事と旅は満足するとは限らない。

2021年12月4日土曜日

心臓病と耳鳴り

シャリンバイの実


 1月に心臓弁膜症の手術をして、術後よかったことが1つある。長年悩まされてきた耳鳴りが消えたことだ。心臓の病気と耳鳴りを関係付ける記事や情報を目にした記憶がないので、自分の経験を少し書いてみたい。

 心臓に雑音があると指摘されたのは6年前の2015年9月29日に遡る。市の健診で女医さんに「心雑音がありますね」と言われた。それまで心臓に異変を感じたことはまったくなかった。子どもの頃から長距離走は苦手で、走ればいつも遅いグループ。学生時代から趣味で山歩きを始めたが、コースタイムは平均より遅く、山に行くたびに心肺機能が平均より劣ることを自覚させられていた。

 健診の2か月後の11月になって専門病院で心臓のエコー検査を初めて受けた。「僧帽弁閉鎖不全」と診断され、毎年1回、検査を受けるように医者に言われた。日記をひっくり返すと、その頃から「耳の奥でドクドクが聞こえる」など耳鳴りの記述が見られるようになる。就寝前など静かにしているときに特に聞こえる。心拍に似た拍動性のリズムなのだが、僧帽弁閉鎖不全と結びつけて考えることはなかった。ネットで「耳鳴り」で検索しても、心臓病との関係を記した情報は見当たらなかった。

 翌年1月になってから耳鼻科と脳神経外科(MRI検査)で調べてもらったが、耳鳴りの原因は分からなかった。その後も耳鳴りが止むことはなかったが、諦めて気にしないように努めた。

 しかし、去年(2020年)6月ころから耳鳴りが強くなった。そして、10月末、所要で途中下車した高岡駅のホームから階段を上り終わったところで強い動機がした。「ああ、病気が進んだな」。12月に予約してあった病院の検査で進行が判明するだろうと確信した。耳鳴りと心臓病との関係も間違いないと感じた。

 はたして12月の検査結果を診て、医者は症状が進んだので手術したほうがいいとの診断を伝えた。執刀する外科医と初めて面会したとき、耳鳴りと弁膜症の関係を尋ねると、「そういえば術後、耳鳴りが消えたという患者さんもいましたね」と答えた。結局、僧帽弁だけでなく大動脈弁も悪く、2つの弁を置換する手術になった。耳鳴りがボリュームアップしてきたのも僧帽弁に続き、大動脈弁も機能不全になってきたからだったのだ。

新しい庭

 15年住んだ石川県かほく市から、群馬県安中市の生家跡に建てた新居に引っ越してまもなく3週間になる。古希を目前に、まさに終の棲家。  築百年以上経つ蔵を改装して、ギャラリーと休憩  ・談話スペースにする予定。蔵と母屋の間は井戸水を循環させた池を設け、鳥や昆...