ルドンといえば作品もさることながら、書いたものもすばらしい。1867-1915の日記をまとめた「私自身に」(池辺一郎訳、みすず書房)は、その深い思索にふれることができる。
「私は貧しさ常に愛した。ぼろの大きさを愛した」「人間の過ぎて行く日々は、彼の能力のただ一つが、目的を果たすにも足りない」「視線を空へ向けない者には、翼はない」
次は時間がたっぷりある老いの身には、ありがたい。
「閑というものは特権ではない。えこひいきでも、社会的不正義でもない。それによって精神や趣味が形をとり、自分がわかるようにもなる、よき必要である」
次のことばは、読む人によって賛否が分かれるかもしれない。
「男の性格は、その連れまたは妻を見ればわかる。すべての男は、その愛する女によってつまびらかにされる。逆もまた真であり、男をみれば、彼を愛する女の性格がわかる。 (中略)最大の幸せはつねに最大の調和から生じる---わたしはそう信じる」
以上のことばは、上記「私自身に」からの引用ではなく、ジュリアン・バーンズの小説「人生の段階」(土屋政雄訳)からである。もちろん「私自身に」にも同じ言葉はある。
ルドンがこう書いたのは、妻カミーユと出会う9年前のことだった。バーンズの小説には「したり顔の夫としてでなく、孤独な観察者として書いている」とあった。
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