きのうの朝、散歩からの帰り、自宅前まできてふと空を見上げると、ガンがV字形になって飛んでいく。慌ててスマホを出したが、たちまち遠ざかり諦めかけたところ、もうひとつの雁行が続いた。あとで画像を拡大して数えると、先の集団は19羽、後のは8羽だった。越冬のため、ここから10キロほど離れた河北潟に向かうマガンの渡りだろう。
毎年、秋が押し詰まったころ、運が良いと朝の散歩のときに見ることができる。ときに赤ちゃんの鳴き声のような音に驚き、頭をめぐらして気づくときもある。
はるばる旅してきた鳥たちが助け合うように飛ぶ姿や声を聞くと、胸がいっぱいになる。
渡っていくガンたちは、幼い日に読んだアンデルセンの「野の白鳥」(「白鳥の王子」)を思い出させる。7、8歳のころだっか。姉が持っていたアンデルセン童話集にあった。白鳥に変えられた11人の兄の皇子たちが妹を網に乗せて海を渡っていく。途中、沖にある杭のような小さな岩に舞い降り、身を寄せ合ってからだを休める。大きく描かれたモノクロの挿絵を見ながら、布団に入って腹ばいで読んでいたことを思い出す。風が吹き波が高い北の海。王子と王女の運命にハラハラしながら、空想は遠い異国の空を駆けていた。本の世界に感動した初めての経験だった。
ジャン・グルニエは「エセー 日々の生活」で、プルーストの「読書の日々」からこんな部分を引用している。
おそらくわれわれの子供時代の日々のうち、本当に生きたと実感できたのは、なんとなく過ごしてしまったと思われるような日々、好きな本を一冊抱えて過ごした日々でしかない。
ジャン・グルニエは、カミュの師としても知られるフランスの思想家。哲学的エッセイ「孤島」はすばらしい。
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